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こんにちは、commonoデザイナー/翻訳者のうちむらです。

UXデザインに関するシリーズの最終話となります。UXデザインとは、ユーザの体験を重視したサービスの設計を行い、共感を獲得し、フォロワーになってくれたユーザが口コミやネットを介してプロモーションを行ってくれることを狙う、そのようなマーケティングの体系である、ということでした。

多くの人に断言されている点ですが、これからのビジネスにおいて、価値を生み出すものはもはや商品ではなく体験であり、モノというのは体験を提供する媒体にすぎなくなります。

世界中がネットでつながった今の社会では、物理的に離れた相手にリーチする速度が段違いに早くなります。国境や会社を超えて、いかにスピード感のある広告を行うかが鍵となるわけです。これは地理的なスピード感だけではありません。サービスの展開の時間軸的なスピードや、情報が脳に入るスピードさえ関係してきます。

そのことを理解すると、自分たちの売り込みの手法に以下のようなシフトが発生します。
・思考→感情
・理屈→直感
・複雑→シンプル
・成長→変化
・データ→デザイン
・スペック→ニーズ
・従来型メディア広告→口コミやSNSでの伝播

もちろん前者を完全に捨てるというわけではありませんが、「発想の軸足」を上記のリストの左から右に変えるのがUXデザインということになるということは言えると思います。

従来型のセールスからUXデザインのセールスへのシフトの好例が、自動車メーカーTESLAのストアに見ることができます。まずは、写真をごらんください。

この写真を一見して、どこが良く見る車屋と違うか、お気づきでしょうか?

スーツを着た営業マンがいないですね。扉がこんなに全面に開け放していることも普通はないように思えます。ディスプレイも、普通の車屋さんにはこんなにない気がします。

従来の自動車メーカは、各地に「ディーラー」を設け、営業マンが待ち受ける中に入り込む、というスタイルでした。用もないのに入るには敷居が高い設計でしたね。で、営業の人が何をするかというと、もちろん車の説明はするのですが、一番話す内容は「価格交渉」です。だからこそこのタイプの店舗は、”Dealer”と呼ばれるんですね。売買のためのやりとりをするスペース。店舗内にお客様を囲い込み、出られないようにして値段の話をする、そんな設計が建物の構造にもチラチラ見えています。

さて、「価格交渉」が「ワクワクするような、特別な体験になった」という人は、この世界にどれくらいるのでしょう?そういう場合もあるのかもしれませんが、それはきっと交渉に「勝った!」という時ですよね?顧客が交渉に勝ったということは、売り手側が負けたことを意味します。この繰り返しでは(特に新しいビジネスの分野での)成長は難しい。考え方の変換が必要なわけです。

テスラのストアには「販売員」はいません。棚に斜めに腰掛けてるお兄さん二人がスタッフですが、この人たちはエキスパートとよばれ、商品を売るためではなく説明のためにここにいます。自動運転はどのようなメカニズムで行われるのか、アプリの使用感はどうなのか…ということを詳しく説明してくれるのですが、それも、こちらから尋ねて初めて、という具合です。

テスラでは、ストアは、車を売るためのディーラーではなく、テスラを知ってもらうため、触れてもらうための「ショールーム」という位置づけです。ここで商品を売りつけられるということや、価格の交渉をすることが、UXを阻害する要素として、省かれているんですね。もしここで「買うよ!」となったらどうなるのかというと、そのお兄さんが、「そこで購入手続きできますよ」と、端末を指差して終わりです。値切ったりの交渉も一切なく、オンラインショッピングの要領で手続きをすませ、納車を待つ。

そっけないと思われますか?でも、これがUXデザインの大事な考え方になります。感動をもたらさない部分は見える部分から極力排除していき、そのかわりに感動の提供に全力をそそぐ、このシンプルさを保つことで、感動が純度を保ったまま伝搬していくのです。実際、昨年発売されたTESLAの「モデル3」(名前さえもシンプル)は、予約受付開始から3日間でなんと27万6000台の受注を受けています。実績は雄弁です。UXは机上の空論などではなく、今後のマーケティングの舵取りを根本的に変えるものであるのはまず間違いないでしょう。

では、UXデザインに基づいたマーケティングを、どのように実践すれば良いのでしょうか。単なる「おもてなしの演出」では不十分であることはすでに十分論じたと思います。顧客が拡散したくなるほどのインパクトのある、「ネタになる」ほどの経験を、どのように提供できるかを考えるのです(仮説/hypothesis)。次に、そのサービスをどのように伝搬していくか、最初にターゲットにするのはどんな客層か、彼らのニーズにどのようにミートしていくかを考えます(分析/analyze)。そして、試しにやってみます(試行/deploy)。

自分たちのサービス、製品に関する評判が十分なスピード感を持って伝搬するためには、何をすればいいのでしょうか。これは、ファーストコンタクトでどれほどいい意味でのインパクトを伴う経験にするかに尽きます。逆の例を考えてみるとわかりやすいと思います。最近よく「炎上」という言葉を耳にしますが、これをある程度騒ぎになってから消そうとしても無理ですよね。

UXとともに「グロースハック」という言葉が一般化してきています。グロースハック(growth hack)とは、文字通り成長をコントロールする手法です。上記でいう最初の一手をどう打つか、どこで、どの客層に訴えるのか、その客層はどんな体験を望んでいるのか。彼らの予想を超えるにはどうしたらいいか、どれくらい認知度が上がったタイミングでサービスを転換するのか、様々なことをデータを駆使して考慮していきます。そうすることで、ちょうどウィルスの伝染のような速度で広がる評判をコントロールし、それに合わせて資金や技術を投入し、適切な成長を作り出す、というわけです。

それには世界の市場にどう切り込むかという大きな視点も、サイトのどこに商品ページを配置するかといった詳細を見る視点も求められます。それぞれのフェーズで顧客のニーズ(この場合は、「感動ポイント」とでもいったほうがいいのかもしれません)に合致するポイントが多ければ多いほど、そのサービスが受け入れられ、プロモーションされていくというわけですから、UXの考え方を常に意識していくことがグロースハックにも欠かせないといえるでしょう。

UXという単語は、今後、商業界における重要単語として、どんどん見かけることになるでしょう。特にデザインの世界では、プロダクト、グラフィック、空間、webその他すべてにおいて、従来型のデザインからUXへのシフトが起こることになるはずです。職人気質とゼネラリストの視点の両方をバランスよく持っていることが、良いデザイナーの条件、ということになるでしょうね。

よいUXを顧客がプロモーションしてそれが伝搬していく様子は、ちょうど(あまり良い例えではないかもしれませんが)ウイルスの感染に似ています。最初はひとりからひとりへの感染かもしれませんが、それが加速度的に広まっていき、あるポイントを過ぎると、止めようとしても止められなくなるほどのインパクトを持ちます。本当に感動を与えるUXを生み出すことができれば、世界全体をピタゴラスイッチのように動かすことも夢ではないでしょう。そうではなくても、UXを追求することで、少なくともお客様に喜んでもらいつつ自分たちも喜びのある仕事をすることができます。

2017年は従来型の営業手法をすて、ユーザ体験主体のビジネスに移行するチャンスの年なのかもしれません。

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