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こんにちは、commonoデザイナー/翻訳者のうちむらです。

前回お伝えした「デザイン・シンキング」についてです。3話に分けてお話できればと思います。
(17/02/03追記:全5話になりました。)

デザイン・シンキングという言葉をお聞きになったことはあるでしょうか?直訳すると、「デザイン思考」「設計思考」ということになりますね。クリエーターやデザイナーの思考法をまねることで、新しい発想を生み出す手法ということだそうですが、これについて論じる前に、まずそもそもデザイナーがどんな思考をしているか、ということを理解する必要があります。ここでは一番手近な例として、弊社コモノにwebデザインを依頼する時にどんな手順が踏まれるかを考えてみたいと思います。

あなたが近々オープンするカフェのオーナーで、コモノにwebデザインを依頼するとします。その場合コモノがすることを簡単にまとめると、

(1)オーナーであるあなたとミーティングを持って、あなたの意向を「理解」する

(2)あなたの思い描く方向性を踏襲しつつ、ディレクターやスタッフがそれを更にいい意味で裏切る「発想」を探るために思考する。数人のブレインストーミングという方法をとる場合もある。

(3)まとめたデザインの「試作」をつくり、練ったプランが現実的かを確認する。またこの時点でクライアントであるあなたに試作デザインを見せ、納得のいくものか、良い意味で期待を超えているかを確認する。実際に現場でテストできるものはβ版としてリリースし、検証する。

と、こんな感じになります。「理解・発想・試作」の3つのプロセスを経て、デザインが納品されるに至る、ということがご理解頂けると思います。ここで大事なのは(デザイナーという「仕事柄」ということになるのかと思いますが)、ひとつひとつの過程を経るたびに、クライアント(ここではカフェオーナーであるあなた)の持っていたイメージを何らかの仕方で「超えているべき」という事です。今回は、最初の「理解」というフェーズでそれがどのように実現されるのか、解説したいと思います。

最初のミーティングで私達がいの一番にあなたに尋ねることは恐らく、「そもそもなぜカフェをしたいと思ったのか」という事だと思います。ずっとバリスタとして腕を磨いてきたあなたが、自分の思うこだわりや培った技術を出し切った珠玉の一杯を誰かに飲んでもらいたい、という場合と、地域の人がリラックスして語り合える、そんな場所を提供するのが重要だ、という場合では、当然デザインの方向性は変わってきます。

あるいは、手元にたまたままとまったお金があるだとか、税金対策で…という場合であっても、そのお金で別な事業をすることもあなたには出来た訳です。ということは、あなたがまだ私達に伝えていないか、あるいは気づいてさえいない理由で、カフェという選択をした、ということになると思います。その「奥底の意思」を汲み取らずに、「なんかお洒落っぽいだけ」のデザインを提供するとしたら、それはデザイナーとして二流の仕事である、とコモノは考えます。

他にも問うべき「なぜ」はたくさんあります。この地域にカフェを出したのはなぜか、なぜこの椅子を、なぜこの器を選んだのか、カウンターの高さをこうしたのはなぜか…。あえてまとめるなら、ここを訪れる人々に、どのような体験をしてもらいたいのか?このようなことをどんどん掘り下げて行き、あなたのカフェの「唯一の価値」と言える部分を即答できるまで、私達はその対象への理解を深めます。その結果、このカフェの持っている、あなた自身も気づかないようなすばらしい面に気づく、これが私達の「理解」の到達目標なわけです。

それが達成できたとすれば、そこにはささやかではありますが、確実な「ブレイクスルー」が生まれます。それを理解したデザイナーと、表面をさらっただけのデザイナーの作った作品には、しかるべく違いが生まれるはずですし、クライアントであるあなたとしても、前者に仕事を頼みたい、と思うのではないでしょうか。

このブレイクスルーの分かりやすい(そしてすばらしい)発現がおそらく、ソニーがウォークマンを開発している時に起こったのだと思います。多くの人が自分の好きな音楽をどこでも聞きたいはずだ、そのためにはスピーカーをもたないプレイヤーが会ってもいいじゃないか、という結論に達するには、「人がなぜ音楽を聞くのか」という事に対する根源的な理解が不可欠です。

人が音楽を聞くのは一言でまとめるとおそらく「そのときの気分を盛り上げたいから」です。状況に適合した音楽はその時の気分を増強します。だからこそ舞台や映画の悲しいシーンでは悲しい音楽が流され、楽しいシーンでは楽しい音楽が流されます。映画制作者はその映画を成功させるために一流の音楽家を起用することに巨額の費用をつぎ込みます。それが効果的であることを知っているからです。

ということは、音楽を最大限楽しむ方法とは、自室のオーディオルームで最高の音質の録音を聞くというよりはむしろ、その時、その状況にあった音楽をまさにそのタイミングで再生できることにあるとはいえないでしょうか。そしてそんな音楽がほしい状況は、家に閉じこもっているときよりも街を歩いているときのほうが多いのではないか。それはきっと多くの人が何となく漠然と感じていたことなのかもしれません。しかし、この理由を「言語化」する、このことが、ウォークマンに代表される、世界を変えてしまうようなブレイクスルーを生み出すプロダクトを生み出したカギと言えそうです。

このような理解(洞察と言ってもいいかもしれません)のほとんどは偶然起こるものではありません。思考を煎じ詰めることによって生み出される、努力の産物です。「ブレイクスルーの発生を人為的に再現すること」これがデザインシンキングの目指すところといえそうです。

次回は2つ目の段階「発想」について考えます。健やかにお過ごしください。

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