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構造主義とデザイン(2)
Thoughts

2016.12.12

構造主義とデザイン(2)

こんにちは、commonoデザイナー/翻訳者のうちむらです。
構造主義について、前回少し触れてみました。自分の思考が社会や環境のフィルターにかかった知覚に基づいており、そのフィルターにかかったものを知覚するのは困難であるという考え方でした。
それがなぜ構造とよばれるのか?その疑問は後ほどご説明するとして、これが構造主義という思想体系にまとまったきっかけになった人物について紹介します。
フェルディナン・デ・ソシュール(1857-1913)という言語学者です。彼が言語と世界観との関係において発表し、その後の思想をおおいに変えたポイントは、以下の点です:

「言葉とはもともとあったものの『名前』のことではなく、その言語の定めた区切りのことである」

ソシュール以前の思想によると言語というのは、ものが歴然と世界にあった上で、そこにどのような名前をつけるのか、というのが言語の違いだ、という認識でした。日本語で犬、英語ではdog、フランス語ではchien、ドイツ語ではHundという具合です。ソシュールはこれを「名称目録的言語観」と呼びました。世界にはものが目録、つまりカタログのようにならんでおり、そこに名前をつけるのは人間次第という考え方です。
しかし、少しでも外国語を勉強したことのある人なら記憶にあると思いますが、日本語にはない外国語単語、あるいはその逆というのはかなりの数存在します。そこから思考を展開すると、名前とは、実はもともとあったものにつけるものではなく、他と区切るために作り出す記号と考えた方が、事実に近いのではないか、とソシュールは考えました。一例として「羊」にあたる英語とフランス語について彼はこう述べています。

「フランス語の「羊」(mouton)は英語の「羊」(sheep)と語義はだいたい同じである。しかしこの語の持っている意味の幅は違う。理由の一つは、調理されて食卓に供された羊肉のことを英語では「羊肉」(mutton)と言ってsheepとは言わないからである。sheepとmoutonは意味の幅が違う。それはsheepにはmuttonという第二の項が隣接しているが、mouttonにはそれがない、ということに由来する。」

羊のことを、フランス語ではmouton(ムートン素材とかのムートンですね)、英語ではsheepといいますが、この二つは完全対応するものではありません。フランス語ではメーと鳴く羊も、調理した羊肉もmoutonですが、英語では羊肉にはmuttonという別単語が存在します。
これはつまり、このなんかモコモコした動物が世界中の人に共通認識で存在していてその「名前をつけている」ということではなく、他のものと区別するために「区切っている」からだ、という訳です。その区切りはその文化、社会によって他と同じことも違う事もあるという。
だから、日本人は「まぐろ」と「かつお」を区別する必要があったのでそれぞれに名前がありますが、英語ではどちらも”Tuna”だよ、と。
その他にもよく言われるのは、「肩こり」という言葉の持つニュアンスを完全に包含する言葉は日本語にしかなく、英語では”pain on one’s back” といった具合に背中という単語で表現します。「肩こり」の持つ感覚を100%英語圏の人に伝えるのは、意外と困難だったりする訳です。
そしてさらに重要な点として、仮にこれを事実としてとらえると、世界観そのものの定義が変わってきます。
これはつまりどういうことかと申しますと、今私が日本語を用いて思考し、話しているとすれば、それは人間が共通で持つイメージで語っているのではなく、「昔誰かが規定した区分の組み合わせ」でそうしているのであり、そうなると、自分の考えというのは完全に自分のものだとは言い切れず、それを超えて思考することはできない、ということになります。
では、そもそも自我とは一体なんなのか?デザイナーやアーティストにとってはクリエイティブやオリジナリティとはなにか?という問いに変わってきます。私達の制作には純粋たるオリジナルはないということになり、結局どこに区分を引くか、その組み合わせでいままでにないパターンを探していく作業が、便宜上オリジナルと呼ばれることになるのです。私達が自説だと思って語ることも、突き詰めていくと全て知らない誰かの受け売りということですね…。漫然としないような、不思議な気持ちになります。
他方、今手元にあるアイディアやデザインのストックを集積すること、その組み合わせを新鮮かつ説得力のあるものにするために、「構造」、つまり世界の人々が共通に美しいと感じるものを土台にして、制作を続けていくことが、良いデザインに到達する道筋と言えるのかもしれません。
さて、100年以上前、一人の大学教授がジュネーブで発表したこのアイディアが、後に構造主義という、20世紀思想を代表する大ムーブメントになります。次回はその中で中心的な役割を果たした、レヴィ・ストロースという人についてお話します。

Written by
Shun Uchimura

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