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こんにちは、commonoデザイナー/翻訳者のうちむらです。

前回(リンク)は、Appleのスローガン、“Think Different” について、言語からアプローチしてみましたが、今回は、このポリシーが現在のAppleにとってどういうものなのか、デザインの観点から考えてみたいと思います。

といっても、僕の考察ではなく、Appleのあるメンバーの言及した内容の解説ですが…。

こちらの記事 (リンク:https://www.cnet.com/special-reports/jony-ive-talks-about-putting-the-apple-touch-on-the-macbook-pro/)で、Appleのチーフデザイナー、Jony Ive氏が、こんな事を言っています。

“Doing something that’s different is actually relatively easy and relatively fast, and that’s tempting,”

訳すると、こんな感じです。

「何か違う事をやるというのは、実際比較的簡単で、比較的手っ取り早く、それは安易に飛びつきたくなってしまうものだ。」

Ive氏は低迷期からAppleのデザインの屋台骨を支えてきた人物です。iMacやiBookといった90年代のプロダクトや、iPod, iPad, iPhone, iWatchに至るまで、現在知られているApple製品全てのデザインに関わって来たと言っても過言ではない彼が、このような言葉を述べるのは少々意外でした。この記事のインタビュアーもこれについて、”I’m momentarily taken aback” と述べています。「少しの間あっけにとられてしまった」というような感じでしょうか。Appleファン(あるいはジョブズ信者)であるなら、同社のチーフデザインオフィサーがこんなことを言うなんて、と、すこし裏切られたような気持ちにもなるかもしれません。

しかし彼は、続く部分でこんなことを言っています。

“We don’t limit ourselves in how we will push — if it’s to a better place. What we won’t do is just do something different that’s no better”

「僕らはそれがより良い方向であるなら、そこに向けて突き詰めていくということに限界をもうけたりはしない。僕らは、単に以前と異なっているだけで何も改善されないことをするということはしないんだ。」

今までにないアイディアであることは大事だけれど、それは以前よりも良い、ということが前提でなくてはいけないのだ。ということかと思います。そしてこれがずっとAppleがあたためてきた、Macシリーズに操作用の小さなタッチスクリーンを付属させるアイディアを捨て、その代わりにキーボード上部のファンクションキーと同じ大きさの “Touch Bar” を導入することになった経緯の鍵となる考え方なのだということのようですね。

Think Differentという考え方はともすると、奇抜なだけで実質のないデザインやプロダクトを生み出してしまいがちである、その落とし穴を避けるためにはそれ以前に “Better” という、よりシンプルで本質的な条件をクリアしていなければいけない、という事なんだと思います。

これは、プロダクトデザインだけでなく、グラフィックやweb、空間などすべてのデザインに共通して言える原則だと思います。デザインを刷新していく時に、新鮮さ斬新さ「だけ」を追求すると、奇抜なだけの独りよがりなデザインが出来上がってしまう。「これから」を先取りすることも重要だけど、そこには質の向上という大原則に裏打ちされたものがないと、デザインとは呼べない何かになってしまうのでしょう。

commonoのデザインも、そういう部分を大事にしています。必要であれば尖ったデザインを採用していますが、人間が見て本能的に美しいと考える線、構図、質感という前提から外れることはありません。webや店舗デザインは、クライアント様のパーソナリティを直接発信するツールとなりますから、「唯一無二」なだけでなく、「人が共有する意識に訴えかける」=commonoなデザインを社是としています。

そういう部分を皆さんに感じ取っていただければ、これほど嬉しいことはありませんよね。

ちなみに、今回考えた”Think Different” ですが、これは当時のPCのトップ企業であったIBMのスローガン “Think.” に対するAppleの挑戦だったと言われています。「考える」機械としてのPCに対してMacは「新しい方向で考える」という違う価値観を持った機械なんだ、というメッセージなのでしょう。単なる競合製品ではなく、全く新しい世界観を提示する、という決意が感じられます。それから約20年、Appleはこの分野での覇権を握る企業になりました。僕個人としてはAppleのプロダクションにとって不幸なのはジョブズ不在ではなく、世界の覇権を握ってしまったという事実の方なのではないか、と考えています。

さらに余談ですが、Microsoftのビル・ゲイツはIBMの製品としてPC-DOSというOSを開発しましたが、IBMはこのシステムを一括買い取りするリスクを恐れ、PC1台売り上げごとのライセンス契約としました。この結果、MicrosoftはMS-DOSをあらゆるPCにOEM販売することになり、後の大躍進のきっかけとなりました。この時のIBMの判断は、「20世紀に行われたビジネス上の最大の誤判断」と言われています。

次回は、言語とデザインの関係を、構造主義の視点からお話します。

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