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こんにちは、commonoデザイナー/翻訳者の内村です。

私事ですが、プライベートで使っている Macbook Air (2011)がそろそろ限界を迎えておりまして、11月発売開始されたMacbook Proにいつ乗り換えようか悩んでいるところです。

皆さんは(commonoのjournalにわざわざ目を通すようなあなたなら、きっとデザインに関して一家言あるでしょうからお伺いしますが)最近のAppleのデザインについて、どう思われますか?iPhoneや今回のMacbookシリーズの刷新がある度に聞こえてくるのは、「Appleは以前の斬新さを失った」「もっと世界をあっと言わせるような、驚きに満ちた製品を作って欲しい」つまり「ジョブズの頃のAppleに戻ってくれ!」という声だったりします。

確かにジョブズ氏が健在だったころのAppleには勢いがありました。それも世界のデジタル機器の使い方を一変させるような、ものすごい勢いです。カラフルなiMacは、ビジネス誌ではなく10代向けのファッション誌の小道具として掲載され、PCとして初めて、若者のお洒落と切り離せない存在となりました。そしてその後のiPhoneやiPadの登場により、外出先でネットに接続するということが当たり前になり、今やそれなしで生活することが想像できないほどになっています。

1997年、iMacの登場とほぼ同じタイミングでAppleが使用したスローガンが、あの有名な“Think Different” でした。ジョン・レノンやマイルス・デイビス、アインシュタインなどのモノクロ写真に、この二つの単語が載せられただけの巨大なポスターが、アメリカのいたるところに貼られる大キャンペーンが行われました。当時LAを訪れる機会がありましたが、空港から降りて最初に見た景色がこのポスター群で、そのインパクトに圧倒されたのを覚えています。

Think Different. このスローガンが登場してからもうすぐ20年が経過しようとしていますが、言語とデザインの両面で、非常に興味深い文と言えると思うので解説させてください(今回は翻訳という視点から、次回はデザインの観点からお話します)。

翻訳不能?なスローガン

もしこのキャンペーンが行われていた当時、私が翻訳者で、クライアントからこの言葉を日本語に訳せという指示が出ていたら、恐らく頭を抱えていただろうと思われます(幸いにもそんな無粋を言う人は関係者にはいなかったようですが…)。

まず、この文は英語の文法としては正確ではありません。本来であれば Think differently. となるべきであり、これだと「違うように考えなさい」という訳があてられます。

しかし、このスローガンを作った人は「あえて」文法を崩しています。わざと文法を崩し、あれっ?という違和感を与えることを狙っているのです。日本語でいうならば「考」「 違」という二つの漢字を置いて、そこから浮かぶイメージを連想させる、とかそういうことをしているのかもしれません。

また、”different” に原型を使うことで、「違う視点で考える」のか「違いを考える」のか「違うということについて考える」のか、あいまいになっています。英語ではそれらの可能性全てを想起させるのですが、じゃあこのニュアンス感を日本語で、しかもできるだけ少ない単語で表現するとなると、最適解を見いだすのはほとんど不可能になってきます。

翻訳者というのは、原語のニュアンスを出来るだけそのまま、しかも同じようなリズム感で伝えるのを目標にしますから、こういうスローガンや、詩のようなタイプの文を訳すのは、極めて難易度が高いものです。色々考えた結果、原語をそのまま使ってしまう、というのが翻訳者の出す回答だったりもします。

ですから、たとえ英語が堪能でもそういうニュアンスを読む力がなかったり、日本語感覚がおかしいと、いわゆる「トンデモ翻訳」が発生したりする訳です。

蛇足ですが11月、ハリー・ポッターシリーズの最新作「ハリー・ポッターと呪いの子」の日本語版が発行されましたがその中で、あるキャラクターが

“No, No way, Jose!” というシーンがあります。

日本語でいうとこれは「絶対ないから!」とか「ありえないし!」という雰囲気です。これをカタカナで読むと「ノーウェイ、ホーセイ」となるので韻を踏んでおり、リズムがいいので口語的にはわりとよく使われる言葉なのですが、あまり使うとちょっとダサいかな..というニュアンスなんですね。それでこのセリフを言ったキャラクターの感覚がずれているところを表現しているのですが、この同じシーンが日本語訳だと、

「待ってちょうだいの長太郎!」

と訳されておりました…。

他にもなかなかオリジナリティに富んだ訳出がされておりますので、英語勉強している方は是非、原文訳文あわせて読まれることをオススメします。

あ、Think Different の話でしたね。いずれにせよ、翻訳もデザインも、それぞれが異なる背景を持つ不特定多数の人に伝えたいメッセージやニュアンスがあって、そこを的確に伝えられるかどうかがグッドデザインとバッドデザイン、グッドトランスレーションとバッドトランスレーションを分ける境目なような気がします。

次回は、現在のAppleチーフデザイナー Johnny Ive氏が Think Different という考え方について語った内容を少しご紹介します。「何か違うことをやるのは実際には比較的簡単で、早くできる。そして、安易に飛びつきたくなる」だそうです。あれ、ちょっとディス入ってますか…?
それではまた。

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